仏壇の引き出し
夫は生まれ育った家ですから、私よりは驚いていませんでしたけど、それでも、いくら隣近所知り合いばかりの田舎とはいえ、半年も留守にするわけですし、ある程度は整理しておかないとまずいだろうという話になりました。
とはいえ、夫は仕事がありますし、私のほうも息子たちはもう大学生ですから手間はかかりませんが、まさか田舎のほうに1週間も滞在するというわけにもいきません。
第一、正直言って、あの大きな家にひとりで泊まりながら片付けをするって……、いくら夫の育った家とはいえっても、私にとってはちょっと、怖いというと大袈裟なんですが、なんとも、夜なんかは広々しすぎて、辛いものもありました。
とにかく、姑に一番に頼まれていた仏壇の整理だけでもしておこうと思いましたが、これがまた、本当に大きな仏壇なんですよ。
うちの実家はもう家には仏壇がなかったし、もちろん住んでるマンションにも仏壇はありません。
だから仏壇のところにいくつも引き出しがあって、そこを開けると、なんだか、貴重そうな、でもよく見るとどうでもいいような……そういうよくわからない古い書類とか、何十年も前の通帳とか、ハンコを輪ゴムで束ねたものとか、いろいろと出てきました。
それと、古い写真。
夫には「とにかく君の判断で捨ててしまっていいから。なるたけ、捨ててきてくれ」って言われてたんですけど、やっぱり、写真とか手紙の束とかは……私が捨てられるようなものではありません。
でもそういう書類とかばかりでもなくて、亡くなった舅の名前がついた薬の袋とか、やけに派手なブローチとか、夫の子どもの頃のものらしい通信簿なんかも出てきました。
整理する、って、ひとことで簡単に言うけど、とてもとても、手に負えるようなものではなかったです。
変な話ですが……これが遺品整理だったら、どれほど大変だろうと思いました。
高齢化社会の中で、人ごとの話ではない。なんとなく口に出しづらい話題ではあるけれど、いずれ、必ず誰かがやらなければならないということが、実感させられました。
結局、それでも仏壇だけは整理して、写真とかはひとまとめにして姑に見せてあげようとまとめて持ち帰りました。
あとは冷蔵庫も、腐りそうなものはとにかく処分して、きちんと掃除もしてきましたけど、この掃除も、マンションのシステムキッチンとはかけ離れた、土間続きの昔ながらの台所ですから、それはもう大変でした。
それで手一杯で、私は古い写真と、夫の子どもの頃の通信簿だけを手に、家に戻りました。